左へ行けば，さらに山に近い住宅地になる。
左ではなく，右へ行こう。
ほどなく，不動明王を祀るお寺がある。
なんでも，勝負事にご利益があるらしい。
休日など，参拝客も多いらしく，
我が家からも，鐘の音が聞こえることがある。
長くはない。
人ひとり通れるほどの狭い歩道があるので，そこを歩く。
街路樹のものではなく，左手の斜面に広がる雑木林から転がってきたのだろう。
やっぱり，秋なんだ。
ダムや滝がある。
右に行けば，遣隋使のひとりとして歴史の授業で習った人物の出身地。
それに，我が家のある住宅地の
西側の崖下の方角になる。
樹々に囲まれた道を歩いていると，
水の流れる音が聞こえる。
道の左側は，雑木林。
その間に，斜面を樹木がおおう谷がある。
その谷底を川が流れていたのだ。
流れは細いが，幾度も岩にぶつかり，
白くはじけながら，素速く流れ下っていく。
ガラスのピラミッドのような温室が見える。
それなりに高い地域だが，所々に，溜め池がある。
風がなく波のない濁った水面に，周辺の樹木と空が映る。
やがて，我が家の方へ向かう急な坂道への分岐になる。
昔，子どもらと下り，登った道だ。
振り返ると，はるか先に，田畑が望める。
稲はそろそろ色づいているようだ。
運動不足の身は疲れてきた。
やっと人がすれ違がえられるほどの急な登り坂が，
まだまだ続く。
百段近くまでは数えていたが，
わからなくなった。
汗が吹き出し，息が上がる。
しかし，
登り切れば，我が家は近い。
帰ろう。
